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第十話 監禁

Penulis: 春埜馨
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-03 21:30:07

この章では、女性に対する性暴力や性差別用語を含みます。そちらをご留意の上、ご一読ください。

蘭瑛《ランイン》は項垂れた頭を上げるように、目を覚ました。

ぼんやりと映る視界が、段々と鮮明になっていく。

(ここは…、どこだ…?)

使われていない古びた部屋だろうか。埃っぽい臭いが充満している。どうやら身体は、柱に立つようにして縛り付けられ、両手は後ろで縛られているようだ。完全に身動きが取れない体勢だ。

視線を正面に向けると、見知らぬ男たちが蘭瑛を見て、蹂躙したい欲望にまみれた様子で笑っている。

蘭瑛が目を覚ましたことに気づいた女が、下品な男たちを払いのけるかのように、蘭瑛に向かって歩いてきた。

「目を覚ましたようね?蘭瑛さん。あの時は、私の腕を捻ってくれて、どうもありがとう」

「……」

蘭瑛の顎を掴みながら、蝋燭の灯りから醜い顔を見せたのは梓林《ズーリン》だった。

「悪く思わないでちょうだい。私の意思で、こんなことしてる訳じゃないから。ある人を怒らせたからこうなっちゃってるだけなの。あなたには残念だけど消えてもらわなきゃならない。ただ…あなた、容姿がいいじゃない?胸も豊満だし。そのまま消えてもらうのは忍びないから、最後に男たちに好きなように弄ばれて、凌辱されたらいいんじゃないかと思って、性に飢えてる男たちをここに集めたの。さあ、どれだけ耐えられるかしら?」

蘭瑛は何も言わず、梓林を怒りの目で一瞥した。

「そんな怖い顔で私の顔を見ないでくれる?あ、そうそう。王《ワン》国師は今夜外に出られてるそうなので、残念だけどあなたを助けてくれる人は誰もいないわ。今夜はひたすら、屈辱を味わってちょうだい」

身動きの取れない蘭瑛だったが、顎を掴まれていた梓林の手を何度も首を振りながら振り解き、口の中にたまたま入った指を、血が出るほど思いっきり噛んだ。

「…いたっ!何すんのよ!この傻屄《シャビー》が!」

梓林は怒りに任せ、蘭瑛の額を思いっきり平手打ちする。

すると、近くにいた髭面の男が面白がって近づいてきた。

「なぁ、いつになったらそこにいる艶々な豆腐を食べられるんだ?早く食わせてくれよ〜。俺たち腹ペコなんだ」

「あっそう。なら、とっととやってちょうだい」

梓林はそう言って、外に出て行った。

蘭瑛は静かに目を閉じた。

これまでも、華山の麓で蹂躙された女をたくさん見てきた。

何故、男は力のない弱い女を性の対象として虐めるのか。どうして自分よりも弱い者を守ろうとしないのか。男という存在を酷く憎み、凶器となった男根を猛毒で溶かしてやりたいと、心の底から何度思ったことか。それだけじゃない。無理矢理子を孕まされ、流産させて欲しいと、泣きながら堕胎剤を訴えてくる女もいる。その後は、想像を絶する痛みに吐きながら腹を抱え、大量の出血と闘わなければならないというのに。ここにいるような身勝手な男たちのせいで、こうしてまた、一人女の命と人生が狂っていく…。

(だから、男は嫌いだ!)

蘭瑛は心の中で叫んだ。

「さてと、どこからいこうか?とりあえず、そのたわわな豆腐を見せてもらおうか〜」

髭面の男が、蘭瑛の胸元を開こうとする。蘭瑛は必死に抵抗し、片足で男の股間を思いっきり蹴り上げた。

「うぅ…」と髭面の男は股間を押さえながら蹲る。

しかし、他の男が鉄の棒を何度も蘭瑛に向かって振り翳し、蘭瑛の右脚の骨を折った。

「あぁーっ!」

蘭瑛はあまりの痛さに声を出して唸る。

神経に寛解の術を施しても、熱を帯びた傷口から溢れる血は止まらない。普段は癒合の術で出血を止められるのだが、今は手が塞がって術を放出できない。

すると更に、追い討ちをかけるかのように、折られた右脚を勢いよく持ち上げられる。

蘭瑛は唐突に来る激痛に耐えられず、思わず悲鳴をあげた。

蘭瑛の陰部に汚い手が入り込む。もう為す術がない…。

蘭瑛は壮絶な痛みと絶望に涙を浮かべた。

「ははは、これから気持ちいいことするっていうのに、泣かないでくれよ〜。まるで、俺たちが悪いことしてるみたいじゃないか」

そう言われた蘭瑛は胸も脚も広げられ、そこにいた男たちの目を釘付けにした。

蘭瑛は、あとどれぐらい我慢すれば終わるだろうか…、と男たちに貪られながら考えを巡らせた。しかし、そんな思考は瞬く間に消え失せ、目がどんどん虚ろになり、遂には泣くことすらできなくなった。

人はあまりの恐怖と絶望を感じると、脳が萎縮し、ありとあらゆる部分が麻痺する。感情も感触も全て無になるのだ。

蘭瑛は、項垂れていた長い髪をグッと持ち上げられ、顔と頭を数回殴られる。力強く塞いでいた口を無理矢理開けられ、口の中にブツを入れられそうになる。

何度も拒んでいると頬と下顎を下から殴られ、酷い音が鳴ると同時に顎を外された。塞がらない口元から血が出てくる。

もう終わりだ…、と血が床に溢れ落ちた瞬間、バンッ!と勢いよく扉を蹴り上げる音が響いた。

蘭瑛は虚ろな目で視界を歪ませながら目を見開くと、剣光を光らせた冷酷無情な男が、冷風を吹かせてそこに立っているのが見えた。

(…永憐《ヨンリェン》…さ、ま…)

蘭瑛は永憐を見た瞬間、失われた五感が蘇り、恐怖と安堵が入り混じった涙がとめどなく流れ始めた。

永憐は梓林《ズーリン》の髪を根本から引っ張り、引きずりながら中に入ってくる。引きずられた梓林は「離してください!」と泣き喚き、暴れ狂っていた。想像を絶するほど強く掴まれているのか、梓林の頭皮から血が滲んでいる。永憐は誰もが凍りつくような殺気を帯びた目をして、梓林を引きずりながら蘭瑛の元へ歩いていく。

ここにいる男たちは皆、永憐の姿を見て、真っ青な顔で唇を震わせた。

永憐は梓林をの掴んだ髪を勢いよく離し、顔を床に叩きつけるかのように突き飛ばす。永憐はその後も、無言で蘭瑛に触れていた男たちの腕を掴み、一人ずつ石を砕くような音を立てて、骨を折った。

男たちの唸るような叫び声が、部屋中に響く。

「離れろ」

永憐の声は一段と低く、怒りが滲み出ていた。

蘭瑛を貪っていた男たちは痛みに悶絶しながら、一斉に蘭瑛から離れる。

永憐は着ていた衣も脱ぎ、蘭瑛に抱き寄せるように被せながら永冠《ヨングァン》で縄を切り解いた。

「もう大丈夫だ」

ふらついて立てない蘭瑛を、永憐は咄嗟に支える。

「脚を折られているのか?」

蘭瑛はぐしゃぐしゃに泣き腫らした顔で頷いた。

永憐はさっと蘭瑛を横抱きに抱える。

片手に永冠を持ちながら、殺気を漂わせた低い声で、男たちに尋ねた。

「蘭瑛の脚を折った奴は誰だ?」

『……』

「この者が誰の客人か分かっているのか!」

殺気立った永憐が怖いのか、殺気が宿る永冠が怖いのか、男たちは黙ったまま何も言えず怯えている。永憐は額に青筋を浮き立たせながら、永冠を勢いよく振り下ろした。

「もう一度聞く。蘭瑛の脚を折ったのは誰だ?」

「は、はい!わ、わたし…です。こ、この女が仲間を蹴ったんで…、あの鉄の棒で…な、殴りました」

永憐はその男の前に立ち、その男の脚に向かって永冠を振り下ろした。鮮血が勢いよく飛び散り、その男は叫びながら悶絶する。

「…わ、わたしは…、人間ですぞ!屍ではない…!」

「同等だ」

永憐はそう言い残し、無駄口を叩いたその男の胸を永冠で一突きした。

自分も殺される…と思ったのか、蘭瑛の胸を貪っていた一人の男が勢いよく外に飛び出そうとする。

しかし、外にいた宇辰《ウーチェン》に捕まり、腹を蹴られ、また連れ戻された。

その様子を見ていた男たちが次々と、永憐に向かって頭を下げ、許しを乞う。

「わ、私たちは彼女に何もしていません!ただ、ここにいただけで…、ほんの火遊びのようなもので…、そ、その…、どうか命だけはお助けください!」

「わ、私もただこの場に居合わせただけで…」

「ど、どうか国師殿…。この通りです」

永憐は氷柱の尖った先のような鋭さで、その男たちを一瞥する。そして永冠の先で、その男たちの顎を持ち上げ、冷たく言い放った。

「黙認するということは、容認していることと同じことだ。人間の尊厳も分からぬお前たちの命などいらん」

男たちは俯き、肩を落として落胆する。

永憐は蘭瑛を抱えたまま永冠を鞘に戻す。

すると、それを見ていた梓林が突然立ち上がり、女とは思えないけたたましい声をあげて、永憐の背中に向かって小刀を突き刺そうとした。しかし、すぐに宇辰が飛びつき、梓林に向かって一挙手を投じ、小刀を取り上げた。

「いけませんよ、梓林様。こんな物騒な刃を、この国の最高峰のお方に向けるのは」

宇辰は微笑みながら、小刀をバキッと素手で折った。

永憐も超人ではあるが、宇辰も永憐の護衛だけあって最強の手練《てだ》れだ。

「永憐様。この者たち、どうしますか?」

宇辰は目を三日月にして尋ねた。

永憐は真っ直ぐ正面を向いたまま、淡々と「全員残らず処刑しろ」と言い放ち、蘭瑛を抱えたまま部屋を出て行った。

三秒も経たないうちに、剣の擦れる音と男たちの唸り音が、蘭瑛の耳に入る。腕に触れられている永憐の手に、ほんの少し力が入ったのが分かった。

しばらく蘭瑛は永憐の腕の中で揺れる。

どこに連れて行かれるのか分からないが、蘭瑛は抱えられるがまま、ただ永憐の目鼻立ちの整った顔を下から眺めた。

いつも通り仏頂面ではあるが、紺碧色の瞳の奥は怒りで満ちているようだ。

蘭瑛はまた、瞳を閉じる。

永憐が来てくれなかったら、今頃、身体と精神は間違いなく崩壊していただろう。見てきた数々の強姦後の死体のように、自分も無惨な形で死んでいたかもしれない。蘭瑛は動かせない口を僅かに動かし、聞き取れない口籠った声で「ありがとうございます…」と囁いた。

それにしても、顔と頭が痛い…。思わず顔を顰め、何度も寛解の術を内側に放出するが、あまり効果はないようだ。自分が弱ると、当然ながら術の力も弱まる。蘭瑛はただひたすらに堪え続けるしかなかった。

身体が震えていたのか、永憐が急に立ち止まり、視線を蘭瑛に向けた。

「大丈夫か?」

蘭瑛はゆっくり目を開け、「…顔と頭が…、痛い…で…す」と、聞き取れるか分からない話し方で返事をした。

永憐は無言で、蘭瑛をもたれ掛かるように抱き直し、蘭瑛の頭を自分の胸元に寄せた。

「もうすぐで私の部屋に着く。もう少しの辛抱だ」

永憐はそう言って、また歩き出した。

居心地良くしばらく揺れていると、藍殿の門の前に到着する。永憐は蘭瑛をあまり動かさないようにと慎重に門を開け、中に入った。藍殿の中央の入り口でずっと待っていた梅林が駆け寄り、蘭瑛の酷い様子を見て悲しそうに涙を浮かべた。

「まぁ…誰がこんなことを…」

蘭瑛は薄らと笑い、小さく「大丈夫です…」と言った。

目線を少し横に向けると、梅林と一緒に蘭瑛の帰りを待っていた秀綾の姿があった。

「秀綾…」

蘭瑛からその言葉を聞いて、秀綾の目からはとめどなく涙が溢れ出した。

永憐が、蘭瑛に視線を向けながら口を開く。

「この者が、知らせに来てくれたんだ」

蘭瑛は秀綾の涙を拭うように、また小さく「ありがと…」と言った。

「梅林。すまないが、湯浴みの準備をしてくれないか?」

「もう、用意してあります」

「ならば、二人で蘭瑛を頼めるか?」

蘭瑛は永憐の住居の中にある湯浴み処まで運ばれ、梅林と秀綾に汚らしい悪魂に触られた身体を、隅々まで清めてもらった。

春埜馨

・傻屄とは、”馬鹿な女性器”と言う意味であり、不快な人を表現する非常に失礼な言葉。 ・吃豆腐とは、性的に女性をからかう差別用語。胸を触りたい、食べたいという意味がある。

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